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えんしょ
艶書
山本 周五郎
「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页
彼は眼をつむったまま云った、「あの明くる朝、あなたはずいぶん早くから庭へ出ていた、あなたは待っていたんだ、梅林のところで、私が鳩の鳴きまねをするのを待っていたんだ」
七重はこらえかねたようにむせびあげた。くくとむせびあげながら、両手で顔をおおったまま云った。
「わたくし、晴着を着ておりました」
「そうだ、こまかい花模様のある晴着で、美しく髪化粧をしていた」
「ええ、わたくし申してしまいます」と七重はおおった手の蔭から(泣きながら)云った、「わたくしあなたのお返辞がうかがえると思いました、それで早く起きて、晴着を着て、髪をあげ化粧をして、待っていたのですわ」
「そうとは知らないものだから、私はあなたをおこらせてしまった」
「あなたは悪戯だとおっしゃいました、あのとき七重がどんな気持になったか、あなたにおわかりになるでしょうか」七重はむせび泣きながら云った、「わたくし、あなたも七重を好いていてくださるものと思っておりました、ですから手紙をみればすぐにわかっていただけると、信じていたんですわ、それなのにあなたは、誰かの悪戯だっておっしゃいました、わたくし、死んでしまいたいと思いました」