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あくたがわのげんこう
芥川の原稿
室生 犀星
「図書」岩波書店、1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,159 字 · 5 页
最後に記者は、では来月号に執筆する確約をうけとると、やっと座を立った。怒りも失望もしない真自面一方のこの人は、「改造」にいまもなおいる横関愛造氏であることを、あとで知った。その時代でもこんな烈しい断り方を誰もしていなかったし、いまの時勢にもこんな断り方をする作家は一人もいないであろう、雑誌記者は原稿をたのむときはどうかお願いするといい、書いて原稿をうけとると有難うといってお礼をしてゆく人である。その場合、作家が上手のようであるが、実際は作家というものは雑誌記者が怖い者の一人であり、一等先きに原稿をよんで原稿がよく書かれているかどうかを、決める人なのである。作家という手品使いが最初につかう手品を見分ける雑誌記者に、いい加減な手品をつき付けるということはあり得ない、雑誌記者は原稿の字づらをひと眼見ただけで、内容とか作品の厚みとかをすぐ読み分けるかんを持っているから、油断がならないしおっかない人なのである。流行作家芥川龍之介はその名前の変てこなのが、逆効果を見せて隆盛をきわめていた。その日、そこに居合せた私の手前、私にちょっとくらい偉さを見せてやろうという気なぞ、少しも持っていない、書けないものを断るまじめさと、次第に昂じる困惑さをみせていた。