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あくたがわのげんこう
芥川の原稿
室生 犀星
「図書」岩波書店、1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,159 字 · 5 页
横関愛造氏があれほどねばっていたのも、山本実彦氏の厳命をうけていたからであったろう。
中央公論の滝田哲太郎氏ほど芥川の原稿を喜んで読んだ人は、稀であろう。毎日三枚か四枚かを夕方使に取りに遣り、その原稿を大切にしまい込み、有名な画家の絵のようにこれを愛撫していたことは、原稿というものの歴史の上にも、これまた稀なことであった。手垢のついた指ずれの少しよごれた原稿は、かさだかにいえば、滝田氏には乱鶴乱雲の間をさまよう体に見え、一代の文学者というものの原稿の貴とさをみきわめた人であったろう、彼はこれを経師に裏打ちをさせ、一冊の書巻として保存していた。私はこれをいちど見たが、ああいう製本された原稿は、いまは何処の誰が所有しているのだろうか、その装本には、たしか芥川は表題をいちいち書きしるし、滝田氏は後代にそれが何万金の値打ちのあるものに、ひそかに思いを潜めていたものであろう。そしてそれらは此頃では実際に於て何万金も投げなければ、入手出来ないのかも知れない。
芥川の原稿は継ぎ張りを施したものもあったが、原稿紙の上で戦った感じをよく出している「かぎ」や「消し」