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はなのさくまえ

花の咲く前

小川 未明

「お話の木」1937(昭和12)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,442 字 · 13 页

青空文庫

ある日、幸吉は、ジャックのことを思い出しました。

「ジャックは、どうしたろうか。」

往来へ出ると、紫色の美しい着物をきたみつ子が遊んでいました。日の光の中に、ぱっと花が咲いたように、道の上までがまぶしかったのです。

「みつ子さん、赤トラはどうなった?」

幸吉は、このごろ、カチカチという拍子木の音をきいても、いくことがなかったのです。

「とうとうK技師に、電気で殺されちゃったのよ。」

「かわいそうだね。」

「だって、赤ん坊をひっかいたり、人間にかみついたりするんですもの、しかたがないわ。」

「どこかへゆくの?」

幸吉は、みつ子にたずねました。

「叔母さんがいらして、お母さんと三人でお買い物にいくの。幸吉さんにお土産を買ってきてあげるわね。」と、みつ子は、ぱっちりとした黒い目で幸吉を見ました。

「みつ子さん、もう僕、晩にいないかもしれない。」と、幸吉は、じっとみつ子の顔を見返すと、みつ子も、ちょっと驚いた顔つきをしたが、すぐにいきいきと笑って、

「そんなことうそよ、だましたって知っているわ。」と、くるりと彼方を向いて、駆け出していきました。げたについている鈴の音が、リンリンと幸吉の耳にきこえました。