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はなふぶき
花ふぶき
豊島 与志雄
「風雪」1948(昭和23)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,409 字 · 20 页
「おい仲本、君もまあ一杯やれよ。」
古賀さんは機嫌がいいようだった。大した会社でもないらしいがその社長で、商工省の何かの囑託をしてる彼は、機嫌のよい時には、チョッキの胸ポケットに親指をつっこむ癖がある。今もその癖を出しながら、千代とおかしな問答をしてるのだ。
「千代ちゃん、」と彼は親しそうにいう。「千代ちゃんは、雀と燕と、どっちが好きかね。」
「雀が好き。」と千代は答える。
「それじゃあ、雀と烏と、どっちが好きかね。」
「雀が好き。」と千代は答える。
「それじゃあ、雀と鳩と、どっちが好きかね。」
「雀が好き。」と千代は答える。
「それじゃあ、こんどは、雀と鳶と、どっちが好きかね。」
「雀が好き。」と千代は答える。
「そんなら、雀と鶴と、どっちが好きかね。」
「雀が好き。」と千代は答える。
それで問答はとぎれた。古賀さんは嘉代さんの方へ乗り出して声を低めて言った。声を低めても、相当に酔ってるから、おれにまで聞える。
「はっきりしていますね。はっきりしているけど、偏執ですね。それだけだから、なおりますよ。」
おれは赤木をつっついて、コップで酒をあおってやった。何もかも、そうだ何もかも、忌々しいのだ。