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はなふぶき

花ふぶき

豊島 与志雄

「風雪」1948(昭和23)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,409 字 · 20 页

青空文庫

と言った。千代はいったい幾歳なのかしら、二十歳ほどでもあろうかと、おれは突然考えてみた。――千代は嘉代さんの姪であり、おれは赤木の親戚筋だから、おれと千代とは以前から識らない間柄ではないのだ。

赤木の家は、大きな坂の下にあって、焼け残りの謂わば部落の出外れになっている。昔は粗末なカフェーで、女給が三人ばかりいた。終戦後、その店を赤木は改造して、おでん小料理屋を始めた。坂にはもうバスも通らなくなり、焼け跡ばかり広々と見渡せるそんな場所でと、嘉代さんはあやぶんだそうだが、案外なもので、頗る繁昌した。やがて、おでんの鍋には蓋がかぶさったきりで、小料理専門となり、金のある常連の足溜りとなった。表側の土間のほかに、奥に一室と二階に二室ある。時々特別の客があって、表戸をしめ、二階の室だけが使われる。――千代は殆んど役に立たないし、赤木夫婦だけでは手不足のところへ、おれがうまくやって来たというものだ。

戦地の話を、おれはまた繰り返さねばならなかった。――南方の小さな島で、長い間食糧の補給がとだえ、兵隊たちは飢餓のために発狂する者まで出て来た。空腹どころではなく、全く飢餓だった。