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はなふぶき

花ふぶき

豊島 与志雄

「風雪」1948(昭和23)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,409 字 · 20 页

青空文庫

どうやら食用になる野草の球根や蔓茎を植えるのに、足だけで体を支えることができず、四つん這いにならねばならなかった。――その真似をして、おれは少し酒もまわっていたので、畳の上を這ってみせた。

そばで見ていた千代が、声を立ててげらげら笑った。おれは睥みつけてやった。

「笑いごとじゃないよ。」

千代はなかなか笑いやまなかった。

おれにとっての深刻な経験も、まるで茶番になってしまった。おれは話をやめて、やけ酒を飲んでやった。

それだけなら、まだよかったが……。翌日、千代は裏の畑の草取りをした。季節向きのいろんな野菜が作ってあり、店の料理の材料ともなるのである。耕作は赤木が受け持ち、草取りはおもに千代がさせられる。ところがその日、千代は畑の畦の間に、膝頭と肱とで四つん這いになって、着物を泥だらけにしている。前の晩におれが話した通りの姿勢だ。それを見つけて、おれは進んで行った。拳をにぎりしめ、だまって見つめた。千代はちょっと振向いて、にやりと笑った。その臀を、おれは思いきり引っ叩いてやった。

千代はころりと横に倒れた。おれはただ見ていた。やがて彼女は起き上り、跣のまま、家の方へ戻っていき、急にしくしく泣き出して、裏口へはいって行った。