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はなこ

花子

森 鴎外

「三田文学」1910(明治43)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,950 字 · 11 页

青空文庫

卓の上に置いてある本があるので、なんだろうと思って手に取って見た。

向うの窓の方に寄せて置いてある、古い、金縁の本は、聖書かと思って開けて見ると、Divina comedia の Edition de poche であった。手前の方に斜に置いてある本を取って見ると、Beaudelaire が全集のうちの一巻であった。

別に読もうという気もなしに、最初のペエジを開けて見ると、おもちゃの形而上学という論文がある。何を書いているかと思って、ふいと読み出した。

ボオドレエルが小さいとき、なんとかいうお嬢さんの所へ連れて行かれた。そのお嬢さんが部屋に一ぱいのおもちゃを持っていて、どれでも一つやろうと云ったという記念から書き出してある。

子供がおもちゃを持って遊んで、しばらくするときっとそれを壊して見ようとする。その物の背後に何物があるかと思う。おもちゃが動くおもちゃだと、それを動かす衝動の元を尋ねて見たくなるのである。子供は Physique より Mtaphysique に之くのである。理学より形而上学に之くのである。

僅か四五ペエジの文章なので、面白さに釣られてとうとう読んでしまった。