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はなよい

花宵

山本 周五郎

「少女の友」1942(昭和17)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,938 字 · 18 页

青空文庫

それは、それは母上……英三郎が母上の本当の子でないからではないのですか」

「おまえなにをお云いだ」

「わたくしはそう思います」

「英三郎」

「わたくしはいつか聞いたんです」彼は夢中で云った。

「ずっとまえに御老人のお客が、わたくしと兄上の遊んでいるところをみながら『本当の兄弟のようだ』と云っていました、本当の兄弟のようだというのは……」

「お黙り、お黙り英三郎」母は顔色を変えてさえぎった、それからじっと英三郎をみつめながら、「こちらへおいで」と云って、仏間へはいっていった。英三郎も涙をぬぐいながら、あとから立っていって母の前へ坐った。母のいねは向き合って坐ってからも、しばらくなにも云えないようすで黙っていた。まだ夜の残っている暗い部屋に、あげたばかりの仏壇の燈明がまたたいていた。

「おまえはいま、母がおまえを憎んでいるとお云いだった、兄さまは叱らないでおまえばかり叱るとお云いだった」

いねはやがて低い声で云いだした。

「そうお云いだったけれど、おまえは自分が悪いのではないかと自分でいちどでも考えてみたことがありますか。それは兄さまよりもおまえのほうにきびしくしているのは本当です、なぜなら兄さまはこの森脇の家を継いで、一生母のそばにいる人です。