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はなたばのむし
花束の虫
大阪 圭吉
「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,893 字 · 36 页
到頭本来の仕事よりもこの事件の持つ謎自身の方へ強くひかれて了ったらしい大月と、それから秘書の秋田は、間もなく先程の証人の男に案内されて、見晴の良いその丘の頂へやって来た。
証人は海に面した断崖の縁を指差しながら、大月へ言った。
「あそこに喧嘩の足跡が御座居ます。――警察の旦那方が見付けましたんで」
そこで彼等はその方へ歩いて行った。歩きながら大月が秘書へ言った。
「ね、君。考えて見給え随分非常識な話じゃないかね。――いくら今日は暖かだったからって、不自然にもそんな白っぽい水色の服など着て、オーバーもなしでいたと言う犯人は、どうも今日ひょっこり遠方からこんな田舎へやって来た人間じゃあないね。僕は、屹度犯人はこの土地で、少くとも服装を自然に改め得る位い以上の余裕ある滞在をした男だ、と考えるよ。そしてその男は、少くともあの場合、黒いトランクを平気でその持主でもない岸田氏に持たせて歩かす事の出来る人間だよ。つまり、極めて常識的に考えて見て、そんな事の出来る人間は岸田氏の親しい同輩か、或は広い意味で先輩か、それとも、そうだ。婦人位いのものじゃあないか――。次にもうひとつ、証言に依ると犯人は岸田氏より小柄で細っそりしていたとあるが、病上りとは言え相当体格のある岸田氏に組付いて、格闘の揚句あっさり岸田氏を崖の下へ突墜し