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はなたばのむし

花束の虫

大阪 圭吉

「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,893 字 · 36 页

青空文庫

て了ったと言うからには、子供の喧嘩じゃあないんだから、何か其処に特種な技でもない限り、犯人は柄の割に腕の立つ、少なくとも被害者と対等以上の実力家である事だけは認めなけりゃならないね」

と、黙って歩いていた証人が口を入れた。

「いや、全くその通りで御座居ます。あの方が崖から突墜される瞬間だけは、手前もよく覚えておりますが、それは全く簡単な位いに、……こう、……ああ、これだ。これがその喧嘩の足跡で御座居ます」

そう言いながら証人は、急に五六歩前迄馳け出して立止り、地面の上を指差ながら二人の方へ振り返った。

成程彼の言う通り、殆ど崖の縁近く凡そ六坪位いの地面が、其処許りは芝草に覆われないで、潮風に湿気を帯んだ黒っぽい砂地を現わしていた。砂地の隅の方には、格闘したらしい劇しい靴跡が、入乱れながら崖の縁迄続いている。よく見ると、所々に普通に歩いたらしい靴跡も見える。そしてそれ等の靴跡を踏まない様に取りまいて、警官達のであろう大きな靴跡が幾つも幾つも判で捺した様についている。

大月は争いの跡へ寄添って見た。

大きな靴跡は直介のもので、薄く小さいのが犯人の靴跡だ。