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はなたばのむし

花束の虫

大阪 圭吉

「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,893 字 · 36 页

青空文庫

すると大月は、静かに微笑みながら、

「判らないかね。――じゃあ言って上げよう。ひとつ、よくこの靴跡を観察して御覧。すると先ず第一に、誰れにでも判る通りこの靴跡は非常に小さいだろう。第二に、靴の小さい割に爪頭と踵との間隔――つまり土つかずが大きいだろう。そして第三に、これが一番大切な事なんだが、ほら、踵の処をよく御覧。底ゴムを打った鋲穴の窪みの跡が、こちらの岸田氏の靴跡にはこんなに良く見えるが、この靴の踵の跡には少しも見えないじゃあないか。ね。いいかい、君。靴に対する衛生思想が、一般に発達して来た今日では、オーヴァー・シューや、特殊な運動靴などを除く限り、殆んどどの男靴にも踵へ鋲穴のあるゴムが打ってあるんだよ。ところが、この靴にはその底ゴムを打ってない。而らばオーヴァー・シューか、と言うに、オーヴァー・シューにしては、子供のものでない限りこんな小さな奴はないし、又、運動靴などにしては、こんな大きな割合の土つかずを持った奴はない。そして又オーヴァー・シューや運動靴の様な特種なものには、それぞれ特有なゴム底の凹凸なり、又は金属的な装置がある筈だ。そこで、僕は、この犯人の靴跡の個有の型状――例えば、全体に小さい事や、外郭の幅が普通の靴底のそれよりも遥かに平坦で細長い事や、土つかずの割合が大きくそして特異である事や