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はなたばのむし
花束の虫
大阪 圭吉
「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,893 字 · 36 页
冬とは言え珍らしい小春日和で、列車内はスチームの熱気でムッとする程の暖さだった。銚子に着いたのが午後の一時過ぎ。東京から銚子迄にさえ相当距離がある上に、銚子で汽車を降りてから屏風浦付近の小さな町迄の間がこれ又案外の交通不便と来ている。だから大月と秘書の秋田が寂しい町外れの岸田家の別荘へ着いた時には、もうとっくに午後の二時を回っていた。
この付近の海岸は一帯に地面が恐ろしく高く、殆ど切断った様な断崖で、洋風の小さな岸田家の別荘は、その静かな海岸に面した見晴の好い処に雑木林に囲まれながら暖い南風を真面に受ける様にして建てられていた。
金雀児の生垣に挟まれた表現派風の可愛いポーチには、奇妙に大きなカイゼル髭を生した一人の警官が物々しく頑張っていたが、大月が名刺を示して夫人から依頼されている旨を知らせると、急に態度を柔げ、大月の早速の問に対して、岸田直介の急死はこの先の断崖から真逆様に突墜された他殺である事。加害者は白っぽい水色の服を着た小柄な男である事。而も兇行の現場を被害者の夫人と他にもう二人の証人が目撃していたにも不拘いまだに犯人は逮捕されない事。