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はなたばのむし

花束の虫

大阪 圭吉

「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,893 字 · 36 页

青空文庫

既にひと通りの調査は済まされて係官はひとまず引挙げ屍体は事件の性質上一応千葉医大の解剖室へ運ばれた事。等々を手短かに語り聞かせて呉れた。

軈てカイゼル氏の案内で、間もなく大月と秋田は、ささやかなサロンで比露子夫人と対座した。

悲しみの為か心なしやつれの見える夫人の容貌は、暗緑の勝ったアフタヌーン・ドレスの落着いた色地によくうつりあって、それが又二人の訪問者には甚らなく痛々しげに思われた。こんな時誰でもが交す様なあの変に物静かなお定りの挨拶が済むと、瞼をしばたたきながら、夫人は大月の問に促されて目撃したと言う兇行の有様に就いて語り始めた。

「――順序立てて申上げますれば、今朝の九時頃で御座居ました。朝食を済まして主人は珍しく散歩に出掛けたので御座居ます。今日は朝からこの通りの暖さで御座居ますし、それに御承知の通り近頃ではもう直介の健康もすっかり回復いたしまして実は明日帰京する様な予定になっていましたので、お名残の散歩だと言う様な事をさえ口にして出て行きました程で御座居ます。女中は、予め本宅の方の掃除から、その他の色々の仕度をさせますので、妾達より一足先に今朝早く帰京させました為、主人の外出しました後は、妾一人で身回りの荷仕度などしていたので御座居ます。