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はなたばのむし
花束の虫
大阪 圭吉
「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,893 字 · 36 页
犯人を茲迄引き寄せて、この儘逃したとあっては面目ない。先生の先刻の、あの意味ありげな微笑は、確に自分の援助を求めた無言の肢体信号なのだ――。
やっと茲迄考えついた秋田は、ふと気付くと、もうどうやら隣室の騒ぎも済んだらしく、いつの間にかジャズの音は止んで、只、低い囁く様な話声が聞えていた。が、軈てそれも終ると、どうやら人の立上ったらしい気配がして衣摺の音がする。で、急にキッとなった彼は、椅子から飛上ると、扉の前へ野獣の様に立開った。
と、不意に扉が開いて、大月の背中が現れた。そして、そのタキシードの背中越しに、若い女の艶しい声で、
「まあ、いけませんわ。こんなに戴いては……」
すると大月は、それを両手で押えつける様にして、それから秋田の方を振向きながら、
「君。――何と言う恰好をしているんだ。さあ、お客様のお帰りだ。其処をお通しし給え」
そこで秋田は、眼を白黒させながら、思わず一歩身を引いた。
「ほんとに済みませんわ。――じゃあ、又どうぞ、お遊びにいらして下さいな」
そう言って若い女は、媚を含んだ視線をチラッと大月へ投げると、秋田には見向きもしないで、到頭その儘出て行って了った。