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はなたばのむし

花束の虫

大阪 圭吉

「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,893 字 · 36 页

青空文庫

――すると、兇行の時間は、十時……?」

大月が訊ねた。

「ええ。ま、十時十五分から二十分頃迄だろうと思います。何分、不意に恐ろしい場面を見て、すっかり取のぼせて了いましたので――」

恰度この時いつの間にかやって来た例のカイゼル氏が、二人の会話に口を入れた。

「――つまり奥さんは、もう一人の証人である百姓の男に助けられる迄は、その場で昏倒していられたんです」

で、大月はその方へ向き直って、

「すると、その百姓の男と言うのは?」

「つまり奥さんと同じ様に、兇行の目撃者なんですがな。――いや、それに就いて若し貴方がなんでしたなら、その男を呼んであげましょう。……もう、一応の取調べはすんだのだから、直ぐ近くの畑で仕事をしているに違いない」

親切にもそう言って警官は出て行った。

大月は、それから夫人に向って、この兇行の動機となる様なものに就いて、何か心当りはないか、と訊ねた。夫人はそれに対して、夫は決して他人に恨みを買う様な事はなかった事。又この兇行に依って物質的な被害は受けていない事。若しそれ等以外の動機があったとしても、自分には一向心当りがない事。等々を答えた。