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はなたばのむし

花束の虫

大阪 圭吉

「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,893 字 · 36 页

青空文庫

ところが十時過ぎてもまだ主人が戻りませんのでその辺を探しがてら町の運送屋迄出掛けるつもりで家を出たので御座居ます。一寸、あの、お断りいたしておきますが、御承知の通りこの辺一帯の海岸は高い崖になっておりまして、此処から凡そ一丁半程の西に、一段高く海に向って突出した普通に梟山と呼ぶ丘が御座居ます。恰度妾が家を出て二三十歩き掛けた頃で御座居ました。雑木林の幹と幹との隙間を通じて、梟山の断崖の上でチラリと二人の人影が見えたのです。何分遠方の事で充分には判り兼ねましたが、ふと何気なく注意して見ますと、その一人は外ならぬ主人なので御座居ます。が、他の一人は主人よりずっと小柄の男で、も一人の証人が申される通り水色の服をきていた様で御座居ますが、これが一向に見覚えのない、と申しますより遠距離で容貌その他の細かな点が少しもハッキリ見えないので御座居ます。妾は立止った儘ジッと目の間から断崖の上を見詰めていました。――すると、突然二人は争い始めたので御座居ます。そして……それから……」

夫人はフッと言葉を切ると、そのまま堪え兼ねた様に差俯向いて了った。

「いや、御尤です。