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かしょく

花燭

太宰 治

1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,501 字 · 38 页

青空文庫

ラヴ・インポテンス。飼い馴らされた卑屈。まるで、白痴にちかかった。二十世紀のお化け。鬚の剃り跡の青い、奇怪の嬰児であった。

とみにとんと背中を押されて、よろめき、資生堂へはいった。ボックスにふたり向い合って坐ったら、ほかの客が、ちらちら男爵を盗み見る。男爵を見るのではなかった。そんな貧弱な青年の恰好を眺めたって、なんのたのしみにもならない。とみを見るのである。ずいぶん有名な女優であった。男爵は、無趣味の男ゆえ、それを知らない。人々のその無遠慮な視線に腹を立て、仏頂づらをしていた。

「それごらん。おまえが、そんな鳥の羽根なんかつけた帽子をかぶっているものだから、みんな笑っているじゃないか。みっともないよ。僕は、女の銘仙の和服姿が一ばん好きだ。」

とみは笑っていた。

「何がおかしい。おまえは、へんに生意気になったね。さっきも僕がだまって聞いていると、いい気になって、婦人雑誌でたったいま読んで来たようなきざなことを言いやがる。僕は、おまえなんかに慰めてもらおうとは思っていない。女は、もっと女らしくするがいい。不愉快だ。僕は、もうかえる。話なんて、ほかに何もないんだろう?」