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かしょく
花燭
1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,501 字 · 38 页
言っているうちに、わけのわからぬ、ひどい屈辱を感じて来た。失敬なやつだ。僕を遊び仲間にしようとしている。おまえなんかに、たのしまれてたまるものか。すっと立ちあがって、ひとりさっさと資生堂を出た。とみは落ちついて、母のような微笑で、そのうしろ姿を眺めていた。
二
男爵は、資生堂を出て、まっすぐに郊外の家へかえった。その郊外の小さい駅に降り立って、男爵は、やっと人ごこちを取り戻した。たすかった。まず、怪我なくてすんだ、とほっとしていた。自分の勇気ある態度を、ひそかにほめて、少しうっとりして、それから駅のまえの煙草屋から訪問客用のバットを十個買い求めた。こんな男は、自分をあらわに罵る人に心服し奉仕し、自分を優しくいたわる人には、えらく威張って蹴散らして、そうしてすましているものである。男爵は、けれども、その夜は、流石に自分の故郷のことなど思い出され、床の中で転輾した。
――私は、やっぱり、私の育ちを誇っている。なんとか言いながらも、私は、私の家を自慢している。厳粛な家庭である。もし、いま、私の手許に全家族の記念写真でもあったなら、私はこの部屋の床の間に、その写真を飾って置きたいくらいである。