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よしとししゃせいちょう

芳年写生帖

野村 胡堂

「オール読物」1938(昭和13)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,626 字 · 26 页

青空文庫

恐ろしい予感

し切れなかったのです。

「何が足りないと言うんです、え?」

「凄さが足りない」

「え? ――お前さん、確りして下さいよ。あんな二本差なんか、芋侍に引渡しさえすれば、それでお仕舞なんだから」

お浜には、芳年の心持が解る筈もありません。日下部欽之丞とおよつの関係を言い当てられて、フラフラと気が変になったのであるまいか――お浜はそんな事を考えるのが精一杯だったのです。

「放って置いてくれ、お浜さん、俺にも少しは考えたことがあるから――」

解ったような、解らないような事を言い捨てて、芳年は自分の家へ入って行きました。

「――――」

その臆病らしい姿、作り笑いさえ浮べた横顔を、お浜はどんなに腑甲斐のないものに思ったのでしょう。

御家人の子に生れて、その描く絵と同じように、骨っぽい男らしい人柄を見上げる心持で居たお浜は、近頃の芳年の意気地のない態度に、言いようのない憤懣を感じて居たのです。

「皆んなあの女のせいだよ」

お浜の眼には、恥というものを、何処かに置き忘れて来たような、およつの白粉焼のした顔が、はっきり浮ぶのでした。

恐ろしい予感

「日下部さん、御安心なさい。三河島の御親類じゃ、日下部さんが無事と聴いて、大喜びでしたよ」