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よしとししゃせいちょう

芳年写生帖

野村 胡堂

「オール読物」1938(昭和13)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,626 字 · 26 页

青空文庫

「――――」

門口まで追って出たおよつ、芳年が一と足先へ行ったのを確かめて、

「わざと途中で手間取って、何処か人気の無いところで――」

およつは手刀で、そっと物を切る真似をして見せます。

「それが、およつ――」

「待ってますよ、暗くなったら、直ぐ迎いに来て下さい。解って欽さん」

「――――」

欽之丞はうなずくと、一と足先に行った芳年の後ろ姿を追いました。

未刻から申刻頃まで、

およつは坐っても起ってもいられない心持でした。長火鉢の前へ行ったり、門口へ出たり、お勝手を覗いたり、煙草を吸ったり、茶を呑んだり、溜息をついたり、

「欽さん」

何んか邪まなことを念ずるような心持で、不思議に胸騒ぎに悩み続けたのです。

ヒョイと見ると、垣の間から白い顔、

お浜の狷相な眼と、人を馬鹿にしたような――その癖、男好きのしそうな赤い唇が見えるではありませんか。

「何んだい、お前は? 昨日も一昨日も、雌犬のように、変なところから覗いたりして、いくら棟割長屋だって、垣の中は人様の城郭だよ、風の悪いことしやがると、水ブッ掛けるから」

およつは気が立って居りました。

「芳年さんは、まだ帰らないの?」