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よしとししゃせいちょう

芳年写生帖

野村 胡堂

「オール読物」1938(昭和13)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,626 字 · 26 页

青空文庫

「何んだ」

「お前さんは此間から、殺しも斬合いも梟し首も描いたが、女の、怨女の末期は手本が無いと言って居なすった」

「――――」

「幸い、この私の浅ましい姿、――息のあるうちに、描いて下さい、――せめてもの恩報じ」

芳年の膝を降りたおよつは、最後の力を絞り出すように、柱に縋ったまま、フラフラと立ち上るのでした。

「それはいけない、――お前の顔に怨は消えた。死ぬ苦しみはあっても、怨女の悪相は無くなってしまった」

まこと、法悦に似たものが、血みどろなおよつの顔を、仏作ってさえ見せているのです。

が、形勢は一瞬にして変りました。

此時、隣の物音に気の付いたお浜が、官兵を送り出した序に、庭の木戸を押し開けて、ヒョイと入って来たのです。

「あッ」

目の前に展開した、血みどろの光景に、お浜は逃げることも忘れて釘付けになりました。

「畜生ッ、お前が訴人したんだね、――この怨み、覚えてお出で」

お浜の顔を見ると、忽ちおよつに蘇生える怨み、柱に絡んだ身体が醜くく歪むと、眼も、口も、一瞬蒼白い焔を潜ったように、深怨無残の悪相が、メラメラと燃え上るのでした。

「助け――てエ」

あまりの事に、お浜は狭い庭の上に這いました。