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くのうのねんかん
苦悩の年鑑
「新文芸」1946(昭和21)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,798 字 · 16 页
時代は少しも変らないと思う。一種の、あほらしい感じである。こんなのを、馬の背中に狐が乗ってるみたいと言うのではなかろうか。
いまは私の処女作という事になっている「思い出」という百枚ほどの小説の冒頭は、次のようになっている。
「黄昏のころ私は叔母と並んで門口に立っていた。叔母は誰かをおんぶしているらしく、ねんねこを着ていた。その時のほのぐらい街路の静けさを私は忘れずにいる。叔母は、てんしさまがお隠れになったのだ、と私に教えて、いきがみさま、と言い添えた。いきがみさま、と私も興深げに呟いたような気がする。それから、私は何か不敬なことを言ったらしい。叔母は、そんなことを言うものでない、お隠れになったと言え、と私をたしなめた。どこへお隠れになったのだろう、と私は知っていながら、わざとそう尋ねて叔母を笑わせたのを思い出す。」
これは明治天皇崩御の時の思い出である。私は明治四十二年の夏の生れであるから、この時は、かぞえどしの四歳であった筈である。
またその「思い出」という小説の中には、こんなのもある。
「もし戦争が起ったなら。という題を与えられて、地震雷火事親爺、それ以上に怖い戦争が起ったなら先ず山の中へでも逃げ込もう、逃げるついでに先生をも誘おう、先生も人間、僕も人間、いくさの怖いのは同じであろう、と書いた。