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ちゃやしらずものがたり
茶屋知らず物語
岡本 かの子
「禅の生活」1935(昭和10)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,346 字 · 7 页
元禄享保の頃、関西に法眼、円通という二禅僧がありました。いずれも黄檗宗の名僧独湛の嗣法の弟子で、性格も世離れしているところから互いは親友でありました。
法眼は学問があって律義の方、しかし其の律義さは余程、異っています。或る時、僧を伴れて劇場の前を通りました。侍僧は芝居を見たくて堪りません。そこで師匠の法眼が劇場の何たるかを知らないのに附け込んで、斯う言いました。
「老師、この建物の中には尊いものが沢山あるのでございます。一つお詣りしていらっしては如何です」
法眼は暫らく立佇って考えていましたが、手を振って言いました。
「今日は是非行かねばならん用事があるのだ。そうもして居られない。だが、そう聴いた以上は素通りもなるまい。せめて結縁のしるしなりと、どれ」
と言って木戸番の前へ行って合掌礼拝しました。
円通の方は無頓着、飄逸という方です、或る人が此の禅僧に書を頼んだ事がありました。
円通は興にまかせて流るるような草書を書いて与えました。受取った人は大悦び、美しい筆の運びに眼を細めましたが、さて何と書いてあるのか余りひどいくずし方で読めません。立戻って円通に訊いてみたところが、筆者自身の円通さえ読めないという始末。