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ちゃばんによせて

茶番に寄せて

坂口 安吾

「文体 第二巻第二号」1939(昭和14)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,989 字 · 6 页

青空文庫

道化は昨日は笑っていない。そうして、明日は笑っていない。一秒さきも一秒あとも、もう笑っていないが、道化芝居のあいだだけは、笑いのほかには何物もない。涙もないし、揶揄もないし、凄味などというものもない。裏に物を企んでいる大それた魂胆は微塵もないのだ。ひそかに裏を諷しているしみったれた精神もない。だから道化は純粋な休みの時間だ。昨日まで営々と貯め込んだ百万円を、突然バラまいてしまう時である。惜げもなく底をはたく時である。

道化は浪費であるけれども、一秒さきまで営々と貯めこんできた努力のあとであることを忘れてはならない。甚だしく勤勉な貯金家が、エイとばかり矢庭に金庫を蹴とばして、札束をポケットというポケットへねじこみ、さて、血走った眼付をして街へ飛びだしたかと思うと、疾風のようにみんな使って、元も子もなくしてしまったのである。

道化の国では、ビールよし、シャンパンよし、おしるこもよし、巴里の女でもアルジェリアの女でもなんでもいい。使い果してしまうまでは選り好みなしにO・Kだ。否定の精神がないのである。すべてがそっくり肯定されているばかり。泥棒も悪くないし、聖人も善くはない。