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ちゃがゆのき

茶粥の記

矢田 津世子

「改造」1941(昭和16)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,568 字 · 30 页

青空文庫

眼の玉にタラリと酒を落すと、俄然鯛の総身が小波立ったように開く。壮観なものだ。生きた鯛に庖丁を入れて刺身につくってあるわけだが、鯛にはまことに気の毒でも、このくらい舌を喜ばす珍味はない。「糸作り」のほうは鯉を糸のように細長く切って、その一本一本に綺麗に鯉の卵をからみつけたものだが、恐ろしく手のこんだ贅沢な珍品だ。

良人の文章はまだ続いて、土佐の「鰹のたたき」のことが、その料理の仕方まで懇切に述べてあるのだった。

読みながら清子は、

「嘘ばっかり、嘘ばっかり」

と見えない良人を詰った。食べもしないくせに嘘ばっかり書いていると肚立たしい気持になったが、しかし不思議に良人の文章から御馳走が脱け出して次ぎつぎと眼前に並び、今にも手を出したい衝動に、清子はつばが出てきて仕方がなかった。

汽車は上野でほとんど満員だった。熊谷の堤は桜が八分咲きで、物売りの屋台が賑やかに並んでいた。けれども碓氷峠にさしかかってからは季節は後ずさりして、山々にも木々にもまだ冬の装いが見られた。時たま、陽向に梅の花が咲いていた。

遺骨と三人の旅だったけれど、姑は哀しいほど浮き立って、ひっきりなしに話しかけ、隣席の学生や前の老爺へ海苔巻を分けてやったり飴玉を勧めたりした。