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ちゃがゆのき
茶粥の記
矢田 津世子
「改造」1941(昭和16)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,568 字 · 30 页
小用の近い姑のために清子は戸口の側に席をとったのだけれど、開けたてが騒々しくて、うつらうつらも出来なかった。今朝がたの電車の雑沓が思い出された。朝の早い電車に乗ったことのない清子は揉まれもまれて悲鳴をあげながら、ただもう姑を庇うことばかりで一生懸命だった。両手に荷物を持って見送ってくれた西尾も、上衣の肩がずり落ちネクタイのよじれた可笑しな恰好になっていた。身動きの出来ない中で、ふと自分の肩つきの右上りな、癇で突っ張っているような姿に気づいて妙な心地がした。良人にそっくりだった。
姑と老爺の間には蕎麦の話がはずんでいた。小諸が近かった。降りて名物の蕎麦を食べて行かないかなどと老爺は誘った。そして網棚の風呂敷包を下ろし、褪めた二重トンビを着て、駅に着かないうちから別れを告げて立って行った。
蕎麦は二番粉の生蕎麦に限る、滝野川の籔忠か池ノ端の蓮玉庵だと言っていた良人のことが思い出された。
小諸の駅に入った時、隣席の学生は城趾や藤村の碑のある方向を指さして、親切に説明してくれるのだった。
羽音がし、窓へすれすれに、鳩が飛んで行った。眼で追うと線路の砂利の上をあちこちして、忙しげにまた飛び立った。