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くさまくら

草枕

夏目 漱石

一个画家厌倦了人情世故,独自钻进深山。他想找一处能喘口气的地方,却在旅途中发现——原来诗和画,都在眼前。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,485 字 · 170 页

青空文庫

せっかく絵の具箱まで持ち出した以上、今日は義理にも下絵をとって行こう。幸、向側の景色は、あれなりで略纏まっている。あすこでも申し訳にちょっと描こう。

一丈余りの蒼黒い岩が、真直に池の底から突き出して、濃き水の折れ曲る角に、嵯々と構える右側には、例の熊笹が断崖の上から水際まで、一寸の隙間なく叢生している。上には三抱ほどの大きな松が、若蔦にからまれた幹を、斜めに捩って、半分以上水の面へ乗り出している。鏡を懐にした女は、あの岩の上からでも飛んだものだろう。

三脚几に尻を据えて、面画に入るべき材料を見渡す。松と、笹と、岩と水であるが、さて水はどこでとめてよいか分らぬ。岩の高さが一丈あれば、影も一丈ある。熊笹は、水際でとまらずに、水の中まで茂り込んでいるかと怪まるるくらい、鮮やかに水底まで写っている。松に至っては空に聳ゆる高さが、見上げらるるだけ、影もまたすこぶる細長い。眼に写っただけの寸法ではとうてい収りがつかない。一層の事、実物をやめて影だけ描くのも一興だろう。水をかいて、水の中の影をかいて、そうして、これが画だと人に見せたら驚ろくだろう。しかしただ驚ろかせるだけではつまらない。