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あらほうし
荒法師
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,734 字 · 36 页
馬蹄の音が、山門から鐘楼のほうへと疾過した、前庭のあたりでするどい悲鳴がおこり、「逃げろ……」という喚きごえに続いて、とりみだした人の足音が境内を横に崩れたった、なにか変事が起っている、俊恵ははじめてわれに返った、数日まえから朧ろげには聞いていた騒音が、いまはっきりと記憶の表に甦り、唯事でないという感じがかれを呼び覚ましたのだ。俊恵は身を起した、そのときいかにも危急を告げるように早鐘が鳴りだした、経蔵の中はいつか赤く揺れる光りで満たされ、ぱちぱちと物の焼けはぜる音が間近に聞える、そしてふいに扉の隙間が眼をみひらいたかの如く火の色に染まった。――寺が炎上している、俊恵は息が止るように思い、よろよろと立って扉へ身を凭せた、耳を澄ますと騒動は寺の内だけではなかった、遙かに遠く、おそらく忍の城下とも思えるあたりでは陣鉦や銃声さえ聞えていた。
「合戦が始っている……」かれはそう呟いた、早鐘がはたと鳴り止み、逃げ惑う人の足音や、ひき千切るような悲鳴が再び大きく耳をうった、俊恵はわれ知らず叫んだ、「ここを明けろ……」けれども答える者はなかった、「おおい