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あらほうし
荒法師
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,734 字 · 36 页
足音がして、誰かが扉へすがりついた、そして錠を壊すのであろう、手斧の響きがするどく耳をうった、「……明真か」俊恵はそう叫んで扉口へすり寄った、錠の落ちる音がし、扉が開いた、かれは思わず眼を掩った、扉が開くといきなり、天に冲する火柱と眉を灼くような火気に面を撃たれたのである、眼がくらんでよろめくかれを誰かが支えた、「俊恵さま早く、早く……」そう叫びながら、その手はかれを掻き抱くようにした、かれはその手の導くままによろよろと走りだした。……明真ではない、それは声と手の触感とですぐにわかった、女である、たしかに女に違いない、しかし誰であるかは見当がつかなかった、……いったい誰だろう、皮膚を焦がすかと思える火気のなかを走りながら、かれは印象にある人の姿をかいさぐってみた。裏門を出たところで「ああ経蔵へ火が移った」という声を聞いた、俊恵はもう眼をあいていたが、ながい断食と精神の苦闘とで、ひどくからだが衰えているから、逃げ惑う人波をぬけてゆくには伴れの女の手に縋っていなくてはならなかった。どこかで潮のように鬨をあげるどよめきが聞え、銃声が続けさまに起った、おそらくかなり間近なところで合戦がある