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きくにんぎょう
菊人形
宮本 百合子
「大衆クラブ」1948(昭和23)年第9号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,991 字 · 16 页
ねころがりながら竹すだれの下からのぞいてみるカザリヤの台所口にも、おゆきの家のと同じような短い竹すだれが下げられていて、あたりまえの水がめや、バケツが流しもとに見えているきりだった。子供の目にカザリらしいものは表の小さな店にも、台所にも見えていなかった。
日露戦争がすんだころ、東京で元禄模様、元禄袖などと一緒に改良服というものが大流行した。歴史のありのままの表現で語れば、日本のおくれた資本主義は、日清戦争から十年後に経たこの侵略戦争で再び中国の国土を血ぬらし殖民地化しながらその興隆期に入ったわけであった。ウラルの彼方風あれて、とオルガンに合わせて声高くうたっていた若い母に、そんなことは何一つわかっていなかった。旅順口がおちたという一月二日に、縁側に走り出してバンザイをとなえた母の腰のまわりでバンザイと云って両手をあげた六つの女の子、四つの男の子、よちよち歩きの児に、何がわかっていただろう。
勝ったおかげで一等国になれる、とよろこんだ日本の民草は、旗行列をし提灯行列をして、秀吉の好んだ桃山模様や、華美な元禄模様を流行させた。改良服は、その時代の気風のなかのいくらか合理的であろうとする面、あるいは世界の中へ前進しようとする方向の思いつきであったと思われる。