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きくにんぎょう

菊人形

宮本 百合子

「大衆クラブ」1948(昭和23)年第9号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,991 字 · 16 页

青空文庫

けれども浅吉はいなかった。いないね、と云ってそのまま行く母について歩きながら、わたしには赤門にいなかった浅吉の印象が刻まれた。浅吉が赤門にいるということに、わけのわからないところがあった。

浅吉はいくらかこわくもあった。お盆のとき浅吉とおゆきとは連立ってお中元に来た。こまかいたて縞のすきとおる着物にうすい羽織を着た浅吉は、白扇をパチリ、パチリ鳴らしながらあんまり物を云わず、笑いもせず、木菟のような眼の丸い頬ぺたのふくらんだ顔で坐っている。そのすこし斜うしろにぺたりと薄い膝で坐った根下り丸髷にひっかけ帯のおゆきが、浅吉をあおいでやるのか、母へ風をやるのか分らない団扇のつかいかたをしながら、

「ほんとに、うちのあっさんたら、正直なばっかりで一刻もんだもんですからねえ、つい二三日前もね、奥様」

という工合で、いつまでも喋った。そういう日には、浅吉とおゆきとだけ別のところで一つお膳でお酒をのんだ。その仕度はおゆきが自分でした。さあ、あっさん、折角だから御馳走におなりよ。そう云って、二人だけでお酒をのんでいるとき、おゆきと浅吉は何か低い声で話しあった。おゆきはお酒がまわって来ると、