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きくちよしょう
菊千代抄
山本 周五郎
「週刊朝日春季増刊」朝日新聞社、1950(昭和25)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,178 字 · 72 页
「おまえをばかだって、おれはそんな、そんなことをいってるんじゃないんだ」
「いいえ知ってます。あんたはあたしをなんにも出来ない女だと思ってるんです、鍬も鎌も持たせない、焚木も背負わせないこやしも担がせない、いっしょに苦労をしようと云って来て、あたしはずっとそのつもりで、なんでもしようと思うのに、あんたにはもう、……もうあたしが重荷になっているんだわ」
「やめて呉れ、頼むからやめて呉れ」
泣きだした妻に向って、竹次は哀願するようにこう云った。
「おまえに野良の仕事をさせないのは、決してそんなつもりじゃない、おまえにそんな事をさせるのがおれには辛いんだ、こんなやまがへ伴れて来て、しなくてもいい苦労をさせて、満足に着ることも食うこともできない。みんなおれの甲斐性なしのためだ、それだけだっておれは済まないと思ってるんだ」
「そんなことを云われてあたしが嬉しいと思うの、一つの物を分けて喰べるのが夫婦なら、苦労だって二人で分けあうのがあたりまえじゃないの」
「おまえは苦労しているじゃないか、おれはおまえの姿を見るたびに」
「やめて頂戴、そんなこと、あんた」
いくは叫んで良人に縋りつき、身を震わせて泣き、しどろもどろにかきくどいた。