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なのはなものがたり

菜の花物語

児玉 花外

「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂、1911(明治44)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,608 字 · 5 页

青空文庫

愈よ不可思議な大和めぐりだと自ら呆れる、しかしこの狸の舌はなかなかに愛嬌の滑らかだ。

旅に乾いた唇を田舎酒に湿しつつ、少し善い心地になって、低声に詩をうたっているスグ二階の下で、寂しい哀しい按摩笛が吹かれている。私はこんな大和路の古い街にも住む按摩が、奇妙にも懐かしく詩興を深く感じた、そこで、早々二階へ呼上げたら彼れは盲人の老按摩であった。

蒲団の上に足を伸しながら、何か近頃この街で珍らしく異った話は無いか? 私が問うと、老按摩は皺首を突出して至って小声に……一週間前にしかもこの宿で大阪の商家の若者が、お定りの女買に費込んだ揚句の果に、ここに進退きわまって夜更けて劇薬自殺を遂げた……と薄気味悪るく血嘔を吐く手真似で話した。

私の顔色は青く、脈搏は嵩まったであろう。どこやらの溝池でコロコロと蛙の鳴音を枕に、都に遠い大和路の旅は、冷たい夜具の上――菜の花の道中をば絶望と悔悟と且つ死の手に追われ来た若者……人間欲望の結局に泣いて私は、尚お蛙の菜の花にひびかせて歌うに聴きとろけつつ……

ランプが薄ぼんやりと枕許に夢のように在る。

朝、眠不足な眼の所為か、部屋の壁に血のような赤い蝶が止っていた。