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なのはなものがたり

菜の花物語

児玉 花外

「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂、1911(明治44)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,608 字 · 5 页

青空文庫

ただ茫然として私は、眼前の不思議に雨に濡れて突立っていた。花の吉野の落花の雨の代りに、大和路で金銀の色の夕立雨にぬれたのであった。

御幣担ぎの多い関西、特に美しいローマンチックな迷信に富む京都地方では、四季に空に日在って雨降る夕立を呼んで、これを狐の嫁入と言う、……偖は今見たのは狐の嫁入でなかったろうか? 後に黄な菜の花が芬々と烈しく匂うていた。

何のくらい歩いただろう、もう日は大和路の黄な菜の花のなかに、極めて派手な光琳式の真赤な色に沈落ちてしまってから、急いで私は淋しい古い街にある宿へ着いた。入口に角形の張行燈の灯がボンヤリ夢の如に点っていた。

単に大和の国で、私は郡も町の名も知らない、古宿の破れ二階に、独り旅の疲れた躯を据えていた、道中の様々な刺戟に頭は重くて滅入り込むよう、草鞋の紐の痕で足が痛む。

西南だろう黒い雲を掠めて赤い金色の星が光る、流石は昔から床かしい大和国を吹く四月の夜の風だ、障子を開けて坐っていると、何時のまにか心地よく、柔こう肌にそよぎ入って終いうとうとと睡くなる。

トントン……と二階梯子を響かせながら、酒膳を運んで来た女は、まアその色の黒きこと狸の如く、煤け洋燈の明りに大きな眼を光らせて、寧ろ滑稽は怖味凄味を通越している。