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おちむしゃにっき

落武者日記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,460 字 · 23 页

青空文庫

――八幡!

彼は身を捻って太刀を抜こうとした。しかしそれより疾く、体の上へ二人の力がのしかかって来た。祐八郎のはねあげた足は、一人を六尺あまりも飛ばした。一人の手首を噛んだ、それが精いっぱいの反抗であった。

――もういけない。

祐八郎は『そのとき』がきたと悟った。それで反抗することを止めた。

繩を掛けられて引き起されたとき、なによりもさきに彼は、そこに立っている娘の姿を認めた。娘は彫像のようにかたく硬ばった顔で、わなわなと総身を震わせていたが、立ちあがった祐八郎を見ると、ひき裂けるような悲鳴をあげながら、地面の上へ崩れ落ちてしまった。

「貴公たちは誰の組だ」

祐八郎は振返って訊いた。……具足を着けた三人の武士は、まだ肩で息をついていた。

「我らは田中兵部大輔どのの家臣だ」

「そうか、……では念のために申しおくがこの農家に罪はないぞ、拙者がこの娘を太刀で威し、訴えたら病父を殺すと云って、無理に一夜を押しかけて泊ったのだ」

「そんなことは本陣へ行って云え、我らは狩り出すだけが役目だ」

「飢えた野良犬どもの犬狩りだ、わはは」

三人は声を合せて笑った。

「そこの、……娘」