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あし

葦

山本 周五郎

「週刊朝日」朝日新聞社、 1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,406 字 · 25 页

青空文庫

愚なよしきりは羽を休めようとしてしばしば振落され、弱い茎を折ってはおお騒ぎをしてどこかへ飛んでいった。……そこでは時間が想像も及ばないほど退屈に、のろのろと経っていった。なにごとも起らなかった、まれに川獺が魚を追いこみでもして激しい水音を立てるほかは、いつもしんと陰鬱にひそまりかえっていた。

秋にはいったある朝、空は明るんでいるが地上はまだ暗く、川面に霧が立ちはじめているとき、ひとりの若い女がこの岸へ下りて来た。篠竹や木の根を手がかりに、崖土を踏み崩しながら。女は美しかった、だが清楚とか純真とかいう感じとは遠く、どこかに不道徳な匂いさえする美しさだった。眉も額の生えぎわも剃りこんであった。きめの密かなひき緊った肌は、不断のていれのよさを思わせる、唇は乾いていた。眼は大きく眸子は澄んでいるが、人を唆るような悩ましげな光を帯びていた。はなだ色の地に秋草を染めだした帷子の着かたも、じみな藤どっこの博多の帯の締めかたも、胸乳や腰の線を巧みに生かして、きりっとしながら崩したふうがみえる。……女はみぎわに来て跼んだ。それから抱えていた筐を膝の上に置いた。さしわたし五寸ばかりの円い螺鈿の筐で、紫の丸紐が打ってある。