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あし

葦

山本 周五郎

「週刊朝日」朝日新聞社、 1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,406 字 · 25 页

青空文庫

……ぜんたいに脆くなり、朽ちかけている、だが昔は螺鈿づくりであったらしく、処どころ青貝が剥げ残っているし、腐って見るかげもないが打紐の切端もある。彼は興味を唆られた、釣竿を別の処へ突き刺し、坐り直して、半ば欠け毀れている蓋を取った。中には一通の封書がはいっていた。……彼はしばらく考えた、それが良心に恥じない行為であるかどうか、万一あばかれたとき自分を不利にする惧れはないかどうか、それから安心して、その封書をとりあげた。

どれほどの年月を経たものだろう、筐が螺鈿であったために、辛くも形が遺っているというだけだ。湿気と、ながい時間の経過とが、それを一枚の板のようにしていた。彼は辛抱づよさと丹念さとで、少しずつ端から剥ぎほぐしていった。それはごく下手な、かな文字で書いた女の文であった。しかしすっかり墨が散っていて、始めのほうはまったく読めない、中ごろから以下もとびとびに、左のような数行の意味を判読できるだけだった。

……まる二ねん、七ひゃく余じつ、せけんもひとめもなく、よるもひるもなく、おもうままにちぎり申しそろ(不明)わたくしは身ひとつ、あなたさまはなにもかも、おいえも名も、おみうちも、ご朋友もおすてくだされそろ、あるにかいなき身に、このほうのそらおそろしく、みほとけのおんばちも思われ、冷たき汗に肌をひたし