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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
それは一つには人形の顔の表情や、衣裳の着せ方にも依るのであろう。と云うのは、大阪のに比べて目鼻の線が何処か人間離れがして、堅く、ぎごちなく出来ている。立女形の顔が文楽座のはふっくらと円みがあるのに、此処のは普通の京人形やお雛様のそれのように面長で、冷めたい高い鼻をしている。そして男の悪役になると、色の赤さと云い、顔立ちの気味の悪さと云い、これは又あまりに奇怪至極で、人間の顔と云うよりは鬼か化け物の顔に近い。そこへ持って来て人形の身の丈が、―――殊にその首が、大阪のよりもひときわ大きく、立役なぞは七つ八つの子供ぐらいはありそうに思える。淡路の人は大阪の人形は小さ過ぎるから、舞台の上で表情が引き立たない。それに胡粉を研いてないのがいけないと云う。つまり大阪では、成るべく人間の血色に近く見せようとして顔の胡粉をわざとつや消しにするのだが、それと反対に出来るだけ研ぎ出してピカピカに光らせる淡路の方では、大阪のやりかたを細工がぞんざいだと云うのである。そう云えば成る程、此処の人形は眼玉が盛んに活躍する、立役のなぞは左右に動くばかりでなく、上下にも動き、赤眼を出したり青眼を吊ったりする。