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そばのはなのころ
蕎麦の花の頃
李 孝石
「文学案内」1937(昭和12)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,494 字 · 16 页
奴等を相手じゃきりがねえ。市場の餓鬼共ときたら怖ろしいやつらばかりで、大人よりもませてやがるだでな。
趙先達と童伊は、めいめいの驢馬に鞍をかけ、荷物を載せはじめていた。陽も大分傾いたようだった。
太物の行商を始めてから二十年にもなるが、許生員は滅多に蓬坪の市を逸らしたことはなかった。忠州や堤川あたりの隣郡をうろついたり、遠く嶺南地方にのびたりすることもあるにはあったが、江陵あたりへ仕入れに出掛ける外は、始終一貫郡内を廻り歩いた。五日毎の市の日には月よりも正確に面から面へ渡って来る。郷里が清州だと、誇らしげに言い言いしてはいたが、そこへおちついたためしはない。面から面への美しい山河が、そのまま彼にはなつこい郷里でもあった。小半日もてくって市場のある村にほぼ近づき、ほっとした驢馬が一と声景気よく嘶く時には――殊にそれが晩方で、村の灯がうす闇の中にちらちらでもする頃合だと、いつものことながら許生員はきまって胸を躍らせた。
若い時分には、あくせく稼いで一と身代拵えたこともあったが、邑内に品評会のあった年大尽遊びをしたり博打をうったりして、三日三晩ですっからかんになってしまった。