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しょうしょうじゅうさんねん
蕭々十三年
山本 周五郎
「新国民」1942(昭和17)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,105 字 · 16 页
「焔硝蔵(火薬庫)はどうした、移転はまだ終っていなかったであろう」
「はっ、隠居曲輪に建てておりまする蔵がようやく壁も乾き、一両日うちに引き移す手筈になっておるところでございました」
「では焼けてしまったのか」
「危うく火を引くところでございましたが、まことに奇特のことがあって、辛くも防ぐことができました」
「奇特のこととはなんだ」
使者はかたちを正して語りだした。……八月二十二日、強い西南の風のなかで城西松葉町から発した火は、矢矧橋を焼き、さらにずんずん延びて板屋町一帯を火の海と化し、外濠を越えて城の白山曲輪へ燃えついた。白山曲輪には古くから焔硝蔵がある、しかもそこは二の丸のすぐ下になっているので、本丸の東にある隠居曲輪へ移転することになり、すでにそっちへ蔵を建てて移すばかりになっていた。白山曲輪へかかった火は手のつけられぬ勢いで燃えひろがり、人々が駆けつけたとき、すでに焔硝蔵はその火を真向にあびていた。移転準備で蔵はかこいの木立を払ってあった、しかも湿気をぬくために窓扉が明いている、駆けつけた人々はこれを見て慄然と立竦んだ。
――窓が明いているぞ。
――誰か窓を閉めろ。