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しょうしょうじゅうさんねん
蕭々十三年
山本 周五郎
「新国民」1942(昭和17)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,105 字 · 16 页
口々に叫んだが、誰の眼にももう間に合わないと思われた、蔵の中には幾百貫という火薬が填まっている、窓から火の粉が一片舞いこんでも大爆発が起るにちがいない、そしてそこまで駆けつけるひまはもうないだろう。
――もういかん、みんな逃げろ。
誰かがそう叫んだ、みんな一斉に踵をかえした。
「そのときでございます、水に浸した布子を頭からかぶった一人の男が、まっしぐらに駆けていって焔硝蔵にとびつきました、梯子をたずねるひまもなく、伐り払いました立木の一本を壁へたてかけ、するすると攀じ登りまして窓へとりつき、扉を閉めるとみえましたが、そのまま、左右の鐶へ帯をひきかけ、これをたよりにおのれの躯をぴったり扉口へ貼りつけて動きません、はじめはなにをしているのかと不審に存じましたが……」
「扉の目塗りをする代りであろう」忠善が呻くように云った。
「御意の如く、おのれの身を以て扉の隙を塞いだのでございました」
「即妙の知恵だな、なに者だ」
「それがなに者ともあいわかりません、火がおさまって駆けつけましたときは、全身まったく黒焦げとなっておりました、衣類はもとより、人相も見分けのつかぬ死にざまでございました」