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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

「よし」と銕太郎は足を停めた、「あやまるというのなら聞こう、云ってみろ」

「私は」岡野は喘ぎ、そして吃った、「私は、軽率に御内室の陰口をききました、つい、口がすべったのです」

銕太郎は黙って相手の眼をみつめた。

「しかし貴方以外には誰にも云ったことはありません、誓います」岡野はきまじめに低頭した、「そしてこれからは、御内室のことは断じて口にしません、断じてです、あのことについては私は聾で盲目で唖になります、それを刀にかけて誓います」

「あのこと、とはなんだ」

「私は誓いました」

「誓った証拠に云え」銕太郎は一歩、前へ出た、「あのこととはなんだ」

「望翠楼の茶会です、むろん御承知のことでしょうが、ほかのことは私は知りません」

銕太郎は刀をおろした。

ゆきをはその友人たちと、毎月二度、望翠楼という料亭で茶会をする。望翠楼は亀形山の東端にあり、城下町とは反対のほうを向いていて、領境までの広い展望を、座敷に坐ったままでたのしむことができる。――城のある西端より一段低いが、昔は出丸があったそうで、台地になっている広い庭内に、京から移した茶室があった。茶室は小堀遠州の作だと伝えられ、「古月亭」