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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

「理由は口で云えない場合もある」と銕太郎は云った、「侍と侍のあいだでは、いちぶんが立たぬというだけで決闘の理由になる」

「待って下さい、それは私がなにか貴方にいちぶんの立たぬようなことをした場合でしょう、いったい私がなにをしたというんです」

「それは覚えがある筈だ」と云って彼は刀の鯉口を切った、「支度をしなければこのままゆくぞ」

「無法だ」と岡野は片手を振りながらうしろへさがった、「なにも覚えがないのに決闘ができますか、まあ待って下さい、私の云うことも聞いて下さい」

銕太郎は刀を抜いた。その動作につりこまれたらしい、それとも恐怖のため無意識に手が動いたのか、岡野弥三郎も刀を抜き、抜きながら、「待って下さい」と叫んでとびさがった。銕太郎は相打ちにでもするように、刀を正眼につけたままぐいぐいと進み出、岡野は左へまわりこんだ。

「待って下さい」と岡野が叫んだ。

銕太郎は構わずにまを縮めた。

「云います、云いますから待って下さい」岡野の顔色が変り、刀を持っている手の震えるのが見えた、「私が軽率でした、あやまります、どんなにでもあやまりますから、どうか刀を引いて下さい」