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あざみ
薊
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页
「山岸のしづさんです」
「山岸とはどの山岸だ」
「御納戸奉行の山岸平左衛門さまで、しづさんはその御妻女、わたくしの昔からの親しいお友達です」
「それがどうして逃げた」
「逃げたのではございません」とゆきをはきつい口ぶりで云った、「あなたが断わりもなしにはいっていらっしゃるので、ただ座を外しただけですわ」
彼はじっと妻のようすを見た、「茶会ではないようだな」
「ええ」と云って起き直ろうとしたが、ゆきをは眉をしかめて呻き、苦しそうにまた横になりながら云った、「五人集まる筈でしたけれど、四人に故障ができましたそうで、わたくしとしづさんだけでしたから、茶会はやめにし、二人で食事をして帰るつもりでした」
そして、話をしているうちに、持病の胃痛が起こったため、いままでしづさんに押えていてもらったのだ、とゆきをは云った。銕太郎はそのとき初めて、妻が下着だけで横になっていること、小袖や帯などが、隅の暗がりにぬいであることを認めた。
「急用とはなんでございますか」ゆきをはだるそうな声で訊いた。
「帰ってからにしよう」
「まだ痛みがおさまりませんし、しづさんを置いてゆくわけにはまいりません」