轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
やくぜんやくご
薬前薬後
岡本 綺堂
「東京」1925(大正14)9月号、「時事新報」1926(大正15)年8月19~22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,091 字 · 12 页
雁と蝙蝠
七月二十四日。きのうの雷雨のせいか、きょうは土用に入ってから最も凉しい日であった。昼のうちは陰っていたが、宵には薄月のひかりが洩れて、凉しい夜風が簾越しにそよそよと枕元へ流れ込んで来る。
病気から例の神経衰弱を誘い出したのと、連日の暑気と、朝から晩まで寝て暮しているのとで、毎晩どうも安らかに眠られない。今夜は凉しいから眠られるかと、十時頃から蚊帳を釣らせることにしたが、窓をしめ、雨戸をしめると、やはり蒸暑い。十一時を過ぎ、十二時を過ぎて、電車の響きもやや絶え絶えになった頃から少しうとうとして、やがて再び眼をさますと、襟首には気味のわるい汗が滲んでいる。その汗を拭いて、床の上に起き直って団扇を使っていると、トタン葺の屋根に雨の音がはらはらときこえる。そのあいだに鳥の声が近くきこえた。
それは雁の鳴く声で、御堀の水の上から聞えて来ることを私はすぐに知った。御堀に雁の群が降りて来るのは珍しくないが、それには時候が早い。土用に入ってまだ幾日も過ぎないのに、雁の来るのはめずらしい。群に離れた孤雁が何かの途惑いをして迷って来たのかも知れないと思っていると、雁は雨のなかに二声三声つづけて叫んだ。