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とうじゅうろうのこい

藤十郎の恋・恩讐の彼方に

菊池 寛

菊池寛『藤十郎の恋・恩讐の彼方に』。同一底本的分册已合并为一书。收入:藤十郎の恋、ある恋の話、入れ札。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,146 字 · 74 页

青空文庫

さあ、ここに使い残りの金が、百五十両ばかりあらあ。みんなに、十二両ずつ、くれてやって、残ったのは俺が貰って行くんだ。銘々に、志を立てて落ちてくれ! 随分、身体に気を付けろ! 忠次が、何処かで捕まって、江戸送りにでもなったと聞いたら、線香の一本でも上げてくれ!」

忠次は、元気にそう云うと、胴巻の中から、五十両包みを、三つ取り出して、熊笹の上に、ずしりと投げ出した。

が、誰もその五十両包みに、手を出すものはなかった。みんなは、忠次の突然な申出に、どう答えていいか迷っているらしかった。一番に、乾児達の沈黙を破ったのは、大間々の浅太郎だった。

「そりゃ、親方悪い了簡だろうぜ。一体俺達が、妻子眷族を見捨てて、此処までお前さんに、従いて来たのは、何の為だと思うのだ。みんな、お前さんの身の上を気遣って、お前さんの落着くところを、見届けたいと思う一心からじゃないか。いくら、大戸の御番所を越して、もうこれから信州までは大丈夫だと云ったところで、お前さんばかりを、一人で手放すことは、出来るものじゃねえ。尤も、こう物騒な野郎ばかりが、つながって歩けねえのは、道理なのだから、お前さんが、此奴だと思う野郎を、名指しておくんなせえ。