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とうじゅうろうのこい
藤十郎の恋・恩讐の彼方に
菊池 寛
菊池寛『藤十郎の恋・恩讐の彼方に』。同一底本的分册已合并为一书。收入:藤十郎の恋、ある恋の話、入れ札。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,146 字 · 74 页
何も親分乾児の間で、遠慮することなんかありゃしねえ。お前さんの大事な場合だ! 恨みつらみを云うような、ケチな野郎は一人だってありゃしねえ。なあ兄弟!」
みんなは、異口同音に、浅太郎の云い分に賛意を表した。が、そう云われてみると、忠次は尚更選みかねた。自分の大事な場所であるだけに、彼等の名前を指すことは、彼等に対する信頼の差別を、露骨に表わす事になって来る。それで、選に洩れた連中と――内心、忠次を怨むかも知れない連中と――そのまま、再会の機も期し難く、別れてしまわねばならぬ事を考えると、忠次はどうしても、気が進まなかった。
忠次は口を噤んだまま、何とも答えなかった。親分と乾児との間に、不安な沈黙が暫らく続いた。
「ああ、いい事があらあ」釈迦の十蔵と云う未だ二十二三の男が叫んだ。彼は忠次の盃を貰ってから未だ二年にもなっていなかった。
「籤引がいいや、みんなで籤を引いて、当った者が親分のお供をするのがいいや」
当座の妙案なので、忠次も乾児達も、十蔵の方を一寸見た。が、嘉助という男が直ぐ反対した。
「何を云ってやがるんだい! 籤引だって! 手前の様な青二才に籤が当ってみろ、反って、親分の足手纒いじゃねえか。