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あしかり
蘆刈
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1932(昭和7)年11月号、12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,413 字 · 78 页
ものにはどれもこれもこころをひかれて記憶にとどまっているのが多いがわけてこの御うたを読むと、みなせがわの川上をみわたしたけしきのさまがあわれにもまたあたたかみのあるなつかしいもののようにうかんでくる。それでいて関西の地理に通じないころは何処か京都の郊外であるらしくかんがえながらはっきりところをつきとめようという気もなかったのであるがその御殿の遺跡は山城と摂津のくにざかいにちかい山崎の駅から十何丁かの淀川のへりにあって今もそのあとに後鳥羽院を祭った神社が建っていることを知ったのはごく最近なのである。で、そのみなせのみやをとぶらうのがこの時刻から出かけるのにはいちばん手頃であった。やまざきまでなら汽車で行ってもすぐだけれども阪急で行って新京阪にのりかえればなお訳はない。それにちょうどその日は十五夜にあたっていたのでかえりに淀川べりの月を見るのも一興である。そうおもいつくとおんなこどもをさそうような場所がらでもないからひとりでゆくさきも告げずに出かけた。
山崎は山城の国乙訓郡にあって水無瀬の宮趾は摂津の国三島郡にある。されば大阪の方からゆくと新京阪の大山崎でおりて逆に引きかえしてそのおみやのあとへつくまでのあいだにくにざかいをこすことになる。