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らん

蘭

山本 周五郎

「家の光」1948(昭和23)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,247 字 · 21 页

青空文庫

「とうとう脇屋をやった」

「どうしたんだ」

「きょう、お城をさがる時、二の丸の枡形で突っかけて来た。石垣を曲るはずみのようにみせて、はげしくからだをぶっつけた。そして言いがかりだ」

「まさか応じはしなかったろうな」

「かれが、どんな雑言を吐きちらしたか想像がつくだろう。初めから謀ってしたことだ。是が非でも、怒らせずにはおかないという態度だった。できるだけ忍ぼうと努めてみたが……」

「あすの御用をひかえているのに、そして、つい先日もおれが云ったのに……」

「あの場にいたら、そこもともわかってくれたろう。おれは決して前後を忘れはしなかった」

「結局、どうしようというのだ」

「つい先刻、藤六から決闘状が来た。あさっての明け七つ、長山の丘で立ち合おうという申しこみだ。須川」と、平三郎は静かに友の顔を見まもった。「……どうしても避けられないばあいだ。頼む、江戸へはやはり、そこもとが行ってくれ」

「それはことわる。考えてみないか黒沢。決闘となれば、相手を切らなければならない。その結果は自分も切腹だぞ」

「もちろんだ。そして、これは藩家将来のために、だれかが必ずしなければならないことだ。